入賞者からのコメント
雪解け水が交じる3月中旬、道東地方のある湧水河川で撮影しました。川幅約2m、水深30 〜40cm、水温はおよそ5℃。激しい流れに梅花藻が美しく揺れる澄んだ川の中でサケ稚魚を撮影するため川を遡っていくと、厳しい冬を超えられず河川で息絶えたシカを見つけました。流木の上に横たわり、胴体は水から出ていたためか森の生き物に食べ尽くされて白骨化し、水中に沈んだ頭部だけが時を止めたように佇んでいました。死体に遮られ流れが緩やかになった場所ではサケの稚魚が体を休め、肉は森の生き物が利用します。彼らが森に糞をすることで森が作られ、その森でまた別のシカが生きていく。命の旅を感じるシーンでした。
水量が多く流速の速い河川だったため、体を安定させるのに苦労しました。次は大好きなサケやマスの写真で入賞できるようさらにがんばります!
Profile
山内 創 So Yamauchi
北海道在住の団体職員。水中写真歴3年半。水の生き物が好きでダイビングを始め、北海道へ移住して川の生き物観察をしていく中で川での水中写真を始める。ハイシーズンは週に2回ほど常呂川水系の河川へ撮影に出かける。サケやマスの仲間が好き。「北海道に暮らすサケ・マス類を全種水中撮影することが人生の一つの目標です」。
審査員からのコメント
テーマが明確で、作者の意図が感じられる作品です。このシチュエーションで撮影したこと自体に価値がありますし、ダイビングの延長線上にはないという点も、他の作品とは一線を画しています。自然の強さ、美しさがストレートに伝わってきました。余計な要素を削ぎ落としてより洗練させるか、逆に、死骸を食べる生物を入れることなどで主題を強調すると、作品としてはより強くなったかもしれません。(上出俊作)