
入賞者からのコメント
撮影地はタヒチのモーレア島。7月~ 10月ごろにザトウクジラが出産・子育てに訪れる場所です。リーフ内は穏やかですが、外洋に出ると海況は荒々しい印象になります。南半球のザトウクジラは好奇心旺盛で、多様種と関わっている動画や写真を見ていましたが、まさか自分がその光景を見られるとは思いもしませんでした。
「クジラとイルカがいっしょに泳いでいる!」というガイドの声を合図に急いで準備をし、200m以上離れた場所で入水。日本とはまったく違い、タヒチではザトウクジラが見えたら離れたポイントでエントリーして、ガイドを信じてひたすら泳ぎます。流れもある中、愛機のD850を持って必死でガイドを追いました。最初に見つけたときは、クジラとイルカの間に距離がありました。その距離が縮まるのを待って、楽しそうに遊んでいる様子に見えたその瞬間、必死でシャッターを切りました。種は違っても仲よさそうなこの光景を見て「人類皆友達」という思いが湧き上がり、ここでも海の生物から人生観を学びました。

Profile
土屋 瞳 Hitomi Tsuchiya
静岡県在住。水中写真歴4年。ホームグランドは伊豆赤沢。深場の珍しい生物が比較的浅い深度で見られることと、〈赤沢ダイビングセンター〉のガイドが自分に合っているのが理由。新しいカメラツールをチェックする大切な場所だそうだ。最近は時間があるときにふらっと気の向くまま海へ……。「生物から学ぶことが多いから継続できてます」
審査員からのコメント
一瞬のシャッターチャンスを見事に捉えている。クジラの前をイルカが何気なく通り過ぎたのだろうが、タイトル通り両者の親密な関係性を想像し思いを巡らせてしまう。柔らかく降り注ぐ陽光もドラマチックで、モノクロの長所が遺憾なく発揮された珠玉の作品とも言える。モノクロは白と黒だけと思われがちだが、習字の墨にも10の色があると言われるように、白から黒への階調で表現するのがモノクロ写真である。この「芽生えた友情」は濃淡を作り出す光の取り入れ方も絶妙で、まさに典型的なモノクロ作品であると評価したい。(中村征夫)