
入賞者からのコメント
12月の北海道は、厚着をするとウエイトが増えて動きにくくなるというジレンマと戦いながら装備を決める季節です。そんな中、アイナメの卵塊がもうすぐハッチしそうと聞いてリクエストしました。往復20分の距離、他のゲストと変わりばんこ。タイトな撮影時間で無事ハッチを撮れるかとドキドキしながら挑みました。
オス親に守られるピカピカの卵を観察し、やがて卵の色が透明に近づき、発眼した赤ちゃんを殻の中に見出す。卵の中でクルクルと回り出す仔魚に「早く出ておいで」と声を掛ける。そうやって成長を追いかけて迎えたハッチの日でした。しかし、動きに違和感を覚え、よく見るとワレカラに、しかもピンクの美しいワレカラに捕らわれていました。産まれたての希望に満ちた仔魚の瞳と、それを断つワレカラのハサミに捕まれた美しい透明の背びれの歪み。この残酷な対比をはかなく鮮明に切り取りました。できることなら別々に撮りたかった被写体です。大人へと成長することが、どれだけ稀有か、改めて考えさせられました。

Profile
酒井郁子 Ikuko Sakai
資格としてのCカード欲しさに講習を受けたが、海洋実習で実際に海に潜り生物たちを目にした瞬間、海の虜に。OW取得後すぐにAWO、さらにMSD。カメラも購入して、とドドド〜っとハマり、水中写真歴は14年になる。北海道在住、アパレルデザイナー。ホームグランドは函館市臼尻町。
審査員からのコメント
小さなワレカラが魚を捕食するというとても珍しい瞬間を、よくここまでピントもしっかりと合わせて撮られたものだと感心してしまいました。ワレカラの2本の脚から、この獲物を絶対離さないという強い意志が感じられますね。捕らわれてしまった魚は、この突然の出来事を理解できていないようにも見え、それぞれの思いが交錯するストーリーを感じさせる作品だと思いました。ワレカラはどうやって食べたのか、もしかしたら仔魚は逃げ出すことに成功したのかなど、このあとの状況も見たであろう作者に聞いてみたい気持ちになりました。(尾﨑たまき)