
入賞者からのコメント
2024年夏、沖縄本島の海は台風の直撃がなかった影響で水温がどんどん上がり、水深20mで29℃、水深5mで30℃を超える日が続いてしまったせいで、南の島でよく見るのに意外と高水温に弱いサンゴは徐々に弱って色が薄くなり「白化」してしまいました。
自分にはこの状況をどうする事もできないので、水納島の白くなっていくサンゴ礁を残念に思いながらガイドしてましたが、この夏の景色は写真に残しておかないといけないと思い白化サンゴの撮影を意識するようになりました。
そして、白く明るくなったサンゴ礁なら暗い景色で映えるんじゃないか? それなら夏場の綺麗な夕焼けと一緒に絡めて撮ったら素敵じゃないかい? と妄想してたら撮ってみたくなったので、それからは撮りやすそうな白化サンゴを探し夕焼けが綺麗で水面が穏やかな日を狙ってサンセットダイビングに向かいました。
サンゴの白化はすごく残念で今年の夏もどうなるのか心配だけど、自分が見た2024年夏の本部町の海らしい1枚が撮れたことに満足しています。今はもう白化するサンゴもなくなってしまったので、こんな景色はあと数年は見られないと思いますが、もう見たくもないし撮影できるチャンスが来ないことを願いたいですね。

Profile
宮原雄介 Yusuke Miyahara
沖縄本島本部町〈フィールダイブ〉のオーナーガイド。沖縄生まれ沖縄育ちでダイビング歴24年、水中写真歴22年。ガイドとして日々潜っているが、自身でも水中撮影する事が好きなので年間50日くらいは愛機を持って潜っている。「これからも地味な本部町の海をのんびり潜って記録していきたいと思っています」
審査員からのコメント
目の覚めるような作品に出会い感動した。この作品制作のために何度もポイントに通い、様々な情報を分析しながらどう表現するかとテーマを絞っていったことだろう。どんどん引き込まれていく魅力ある作品だが、実は重要なメッセージが込められている点にも気づかされた。ミドリイシ類のサンゴたちはまだ若いが、海水温上昇により白化している。タイトルにもあるように、果たしてこの夏を乗り越えられたのかと不安がつのる。水平線に対し波のうねりを不安定に傾かせる手法により、不安は一層掻き立てられる。そのサンゴたちに対する憂いを作者はこの1枚に凝縮させたと言えるだろう。力強く美しいが、反面高水温にあえぐ海の嘆きも作品から感じ取ることができる。確かな視点と深い洞察力により完成された名作であると確信している。(中村征夫)
半水面の絵作りは難しい。水面下と水面上の2か所に主要なテーマが必要になるからだ。見下ろす水面下に美しいサンゴ礁がある。同時にそのサンゴの多くが温暖化の影響を受け、白化している。まるで、白磁器の展示会みたいだ。ストロボの灯りを受け、昼間のように光り輝いている佇まいは幸せなサンゴ群落を想像させてくれるが、実は不吉な死の予兆。撮影者もそれを心配している。
さて、水面上には何があるか。夕闇に覆われつつある水平線には、美しいオレンジ色の残照が光芒となり立ち上がっている。横尾忠則のポスター画のようだ。沖縄の人々が「ニライカナイ」(理想郷)と呼ぶ水平線に「旭日日章旗」が立っている。沖縄の優しい語り口で、深い哀しみを詠う「島唄」のように沖縄の今を問いかけるグランプリにふさわしい作品だ。(中村宏治)