「自分が伝えたいことがわかる写真を評価」

阿部秀樹さん(Hideki Abe)/写真家

ニュアンスを最大限に伝えることが大切

写真はそもそも現実を写しとるものですが、夢を与える側面もあります。現実が夢を与えるということではありません。現実と夢には相反する部分がありますが、どちらも「写真」です。たとえば環境問題を扱った写真の中には目を背けたくなるようなものもありますが、それは現実を強く伝える写真です。また、逆に夢を伝える方向が強いリラックスモードの写真もあります。

フォトコンの審査ではどちらかの側面に偏ることなく、平均的にジャッジするように心がけています。どの側面の写真でも、そのニュアンスがきちんと伝わるかどうかを評価します。
海底のゴミの写真なら脚色することなくゴミを克明に伝えているか。夢を追う写真なら、限りなく夢に近づけて構成できているか。生態においても、生き物自体の造形美においても同じです。ニュアンスを最大限に伝えられているかどうかがいちばん大切です。

グランプリ作品には明確な理由がある

私は「ABE CUP」という写真コンテストに10年間関わりました。「ABE CUP」では、すべてに点数を付けます。たとえば、ピントだったら、0.5点から5点まで、0.5点刻みで評価します。技術点、芸術点、被写体理解度など6項目の点数を合計して、最終的に順位を決めていました。
点数化することで、なぜその写真がグランプリなのか、グランプリを逃した写真は何が不足していたのか明解になります。

フォトコンでは、審査員は受賞の理由を聞かれたら、何がよかったのか、どこが足りなかったのか、答えられないといけないと考えています。「なんとなく雰囲気がよかったのでグランプリですよ」では、審査とは言えません。漠然とした雰囲気ではなく、どこがどれだけよかったからマイナス面を凌駕してグランプリに選ばれたという明確な理由があるはずです。
ですから、僕の頭の中で満点に近ければグランプリになります。ドキュメンタリーだろうが、夢だろうが、生態だろうが、どんな写真にもグランプリのチャンスはあります。極端に言うと、ワイドだろうがマクロだろうが、どんな写真でもいいのです。大事なのは、自分なりの解釈でいいので、自分がいいたいことがわかる写真を応募することです。

気負わずに、過度に意識をしないで応募を

第1回の結果を見て思ったのは、気負いすぎている方が多かったのではないかな、ということでした。
作品のセレクトに迷っているのではないか、過度に気負って、緊張し過ぎているのではないか。もっとリラックスして応募しましょう、ということですね。
入賞を逃した皆さんは、たぶんもっといい写真をいっぱい持っているんです。
実際に以前に見せてもらったことがある写真のほうがよかったのに、と思うものもありました。
おそらく、これじゃなきゃダメだとか、こうじゃなきゃ入賞できないだろうなどと考え過ぎて、自分が撮影したときのストレートな素直さを見失って、目の前の派手さやインパクトばかりを狙ってしまっている気がします。

写真の中にはじっくり落ち着けば落ち着くほど味があるものもあります。
JUPCでは6人が審査をします。審査員がひとりだと、1度目の前を通り過ぎた作品は見返されるチャンスがほとんどなくて、再評価されにくいのですが、6人いるとそれはありません。審査員が多人数のフォトコンでは、誰かが気づき、そうした作品が上位に残ることもあります。
気負わずに、過度に意識をしないで、冷静に判断して応募してください。

フォトコンは楽しい。必要以上に審査員の作風を意識するのはハイリスクな出し方ですね。そのジャンルに精通しているスペシャリストですから、足元にも及ばないでしょう。むしろ、審査員にとって新鮮な作品、写真を見たときに自分も撮りたい、私が挑戦したいと思えるような写真を見てみたい、というのが本心です。

阿部秀樹 プロフィール
神奈川県藤沢市生まれ。鎌倉稲村ケ崎育ち。サラリーマン時代にフォトコンテストにおいて数々の賞を受賞、その後水中写真家として独立。水中生物の生態撮影が得意分野で100種にわたる生態行動をアマチュア時代から追いかけテレビ番組等で活躍、コーディネートも行っている。浮遊系生物やイカやタコの撮影では国際的な評価を得ている。近年は、和食の知見を活かした撮影活動にも力を入れている。