「心に響く写真が集まることを楽しみしています」
 -高砂淳二さん(審査委員長)

11月1日から日本水中フォトコンテストの作品募集がスタートしています。開催初年度です。どのようなコンテストになるのか楽しみです。審査員を代表して、委員長をお引き受けいただいた自然写真家の高砂淳二さんに、フォトコンテストに向けてお話をうかがいました。

感動した気持ちを写真に乗せて人に伝える

写真は撮ること自体の楽しさもありますが、最終的に見てもらうもの。記録という側面はありますが、見てもらってこそ価値があるという面もあるわけです。写真を撮ったらSNSにアップして見てもらいたいという気持ちは当たり前のことですごくいいことですが、フォトコンを意識すると、写真への取り組み方が変わってきます。

写っていれば記録としては成り立ちますが、コンテストで予選を通過するために、さらにいい写真撮ろうと向上心が生まれます。背景を意識して撮るようになったり、微妙な露出の具合や質感の出し方などさまざまな面で最善を尽くすようになります。

人の心に入っていくことができるか意識することで、どこをどういうふうに見せたらこの感動が伝わるのだろうとか考えるようになります。そのために質感を出す、立体感を出す、背景を暗くしてストロボで浮き立たせる、などいろいろなテクニックを使って最終的には人に伝わるようにしていくわけですね。その過程は写真の上達に繋がるし、見る側と撮る側の感覚の違いもわかってきて、いろいろな意味で進歩します。感動した気持ちを写真に乗せて、それを見る人に伝えるための手段を考えて、どんな撮り方をするか試行錯誤する中でテクニックも磨かれていくでしょう。

ただし、「うまく撮ってやろう」というのは、やりすぎないほうがいいでしょう。自分が被写体より前に出てきてしまい、本質が隠れます。うまく撮ろうという気負いが被写体のよさを覆い隠してしまう可能性があるので、被写体のきれいさやすごさをどうやって出すかと考えたほうがよりよくなります。うまく撮ろうと思いすぎると、小賢しくなってだめですね。

心に響く感動の大きさで作品を選びたい

フォトコンでは、主催者がいて、いっしょに審査する人がいます。そういう中、バランスを考えなくてはいけない雰囲気が漂うこともあります。必ずしも、いい写真が選ばれるとは限らない状況もあるわけです。

たとえば1位がバラクーダの写真だったとします。他にバラクーダのいい写真があったとしても、同じような写真は選びにくいとか、全体の色調や見栄えが考慮されたりとかですね。そういう政治的な都合が働くことは完全否定はできませんが、そうではなくて、1点1点、心に響く写真を選びたい。もちろんピントが合っているとか、露出がある程度合っていることは必要ですが、心にバーンと入ってくる、感動を覚える、その大きさで選びたいと思います。

たとえば、海の中の宇宙を感じる写真、「うわ〜、水の中はこうだよね」とか、「こんな海の中を知らなかった」とか、そういうのが響きますね。生態的な写真も、パッと見て、こんな生き物がいて、こんな生き方しているんだ、ということがストンと入ってくる写真は、選者が専門家でなくても評価してくれます。

審査員の共感を得た写真が選ばれていく

写真は数学のテストのように、これは0点、これは100点とはっきり点数をつけられものではありません。堅苦しく考えずに、自分で「これがいい」と思う写真を応募してほしいです。それに審査員が共感することもけっこうあります。テストを受けるわけではありませんし、それぞれ考えや好みが異なる審査員が見ます。そこで共鳴すれば選ばれていく、そんな気持ちで出してもらえるといいですね。

審査員も好みが違いますから、複数いれば人数分の選ぶ写真あります。1つの基準に法って決めるわけではありませんから、気楽に出してもらいたいです。
審査員の好みにばらつきがあっていいんじゃないですか。そのほうがおもしろいですね。審査が楽しみです。

ネットにはない出会いと絆を生むフォトコンテスト

コロナ禍の中、ダイビングの世界で中心的な存在だった雑誌がなくなり、業界がバラバラになってしまうのかというさみしい気持ちがあったときに、実行委員長の大村さんからこういう企画があるんですが、と審査員の依頼がありました。求心力の1つになるな、とうれしかったですね。

ネットの世界にもひとつの業界のようなものは存在しますが、フォトコンテストをやって写真を出し合って、人が集まって人と人が会うことで、実態としての絆のようなものも生まれてくる。そういう感覚が出てくると思うので、こういうフォトコンテストはネットにはないものを生み出してくれるのだろうと期待しています。

プロフィール

高砂淳二  Junji Takasago

自然写真家。1962年、宮城県石巻市生まれ。熱帯から極地まで世界中の国々を訪れ、海中、生き物、虹、風景、星空など、地球全体をフィールドに、自然の繋がり、水や生命の循環、人と自然の関わり合いなどをテーマに撮影活動を行っている。著書は、『PLANET of WATER』『Dear Earth』『光と虹と神話』ほか多数。ザルツブルグ博物館、東京ミッドタウン、渋谷パルコほかで写真展も多数開催。TBS「情熱大陸」、日本テレビ「未来シアター」をはじめ、テレビ、ラジオ、雑誌等のメディアや講演会などで、自然の大切さ、自然と人間の関係性、人間の地球上での役割などを幅広く伝え続けている。海の環境NPO「OWS」理事。みやぎ絆大使。
2022年、ロンドン自然史博物館主催の「WILDLIFE PHOTOGRAPHER OF THE YEAR」のNATURAL ARTISTRY(自然芸術部門)で最優秀賞を受賞。