「フォトコンは写真をきちんと評価してもらえる機会」
上出俊作さん(Shunsaku Kamide)/水中写真家
評価の基準はインパクトとコンセプト
写真には、記録やジャーナリズムという側面もありますが、僕は写真をアートとして捉えています。日頃からその意識で撮影をしているので、フォトコンの審査でも”アート作品”の側面から評価させてもらっています。水中写真は自然が相手ですから、「アート作品」といっても環境への配慮という視点も含めてになります。
自分の中でアートとして捉える上で大事にしている視点が2つあります。ひとつは視覚的なインパクト。ビジュアルですね。そして2つ目がテーマ。コンセプトです。
「視覚的なインパクト」では、新しさは必要だと思います。アート作品としての新しさ。フォトコンでは、見たことがあるものは上位には選ばれないでしょう。きれいで美しいとしてもそれだけでは弱いのです。
水中写真ではアートと生態を切り分けることはできません。生態をつぶさに観察することで、何か新しい表現が生まれてくる可能性は十分にあります。生態写真がダメということではなく、生態としての貴重さやこれまで世に出てこなかったシーンを捉えてしっかりアートとして成り立たせているのであれば、評価に値します。
アートの視点から見たインパクトとは、ビジュアル的に何かしら新しい要素があるということです。それは美しいかもしれないし、かっこいいのかもしれないし、おどろおどろしいのかもしれない。必ずしも美しい必要はないし、奇をてらうのではなく洗練されたビジュアルとしてのインパクトです。
「作品のテーマ性」は、「被写体との向き合い方」と言い換えられるかもしれません。ガイドさんに紹介されたから撮った、というだけではテーマもコンセプトもないことが透けて見えてしまいます。
自分の気持ちを掘り下げて、なぜ撮ろうと思ったのか。ガイドさんに紹介されたとしても自分の視点があるはずです。なぜそう撮ったのか、その海・その被写体は自分にとって何だったのか。そういう向き合い方が大事になります。自分の内側から湧いてくる動機のようなものを大切に撮影してほしいと思います。難しく考える必要はありませんが、なぜそれを撮ったのか。自分なりの理由があれば、「写真の力」が出てきます。
応募することは何かのきっかけに
フォトコンで入賞を狙うなら、主催者の意向、審査員の志向は無視してはいけないと思います。賛否両論あるでしょうが、僕はそういう考え方が間違っているとは思いません。審査員の意図を汲んで勝ちに行く、というのはありです。
ただ、JUPCに関してはそれはおすすめしません。審査員が6人いますから、攻略のしようがありません。それより、自分にとって水中写真がなんなのか向き合う。
当たり前のことですが、応募にあたって「セレクト」は重要な作業です。選ぶことも練習だと思ってやってもらいたいですね。撮影も編集もていねいにやって、セレクトもていねいにやる。JUPCは、明確なテーマがあるフォトコンではありませんから、攻略法は非常に難しいです。ですから、あまり考えすぎずにていねいにセレクトしてください。
まずはお祭りに参加するくらいの気持ちで応募すればいいと思います。真剣に取り組めば得るものは多いし、応募すれば他の人の写真を真剣に見る機会になります。授賞式に参加すれば水中撮影を楽しむ人たちとのつながりができるでしょう。
ビギナーは気後れするかもしれませんが、最初はそれも仕方ないですね。フォトコン入賞がすべてではありませんが、応募することは何かのきっかけになります。
SNS上の「いいね」ではなく、自分の写真をきちんと評価してもらえる機会がフォトコンです。水中撮影に取り組んできた自分の「好きという気持ち」や「撮影時の想い」が載った写真を応募して、楽しみましょう。
上出俊作 プロフィール
水中写真家。東京都生まれ。沖縄県名護市を拠点に数mmのウミウシからザトウクジラまで、海の中に暮らす生き物たちを幅広く撮影。被写体とじっくり向き合うことで生み出される作品群は、繊細な色彩を纏うマクロ写真から躍動感溢れる迫力のワイド写真まで表現の幅は広い。マンツーマンのフォトセミナーのほか、ブログ「陽だまり かくれんぼ」でも、水中撮影の手法を披露している
上出俊作公式Webサイト「陽だまりスタジオ」